2013年1月

「朝日新聞の被害者実名報道(アルジェリア人質事件)の正義」

アルジェリア人質事件では、悔しいことに、尊い命が多数失われ、被害者の家族やご関係者は大きな深い傷を負われました。謹んで、哀悼の意を表します。

当初、政府は遺族・日揮とも協議して、被害者の実名を出さない方針を決定し、報道各社は名前が判明しても、それに倣いました。

朝日新聞を除いては、です。

1月21日深夜、日本政府は日本人犠牲者がいたことを確認しそれを公表しました。その会見の際に、菅官房長官は経過の説明を踏まえ、犠牲者の実名を明かさないことを表明しましたが、翌22日、朝日新聞は遺族から出さないでと言われていた犠牲者の実名とfacebookから無断で取った写真を公表しました。これが発端となり、テレビ、他の新聞各社も追随、被害者の実名が広く報道されることになりました。その被害者の方の遺族は、僕が大変お世話になっている本白水さんです。

朝日新聞は、事件が起きてすぐに本白水さんとコンタクトを持ち、事件後の16日・17日の朝日新聞紙面では、匿名で「被害者親族」というかたちで本白水さんと思われる人のコメントを出しています。

本白水さんも認められていて、本人のブログでも書いています↓

"今回のアルジェリアの一連の事件に関しての取材に協力する際に、私は被害者の親族として事実関係を報道することに協力する意をもって取材を受けましたが、前提として私と「人物が特定できるような記事は書かない」「記事にする際には私に許可を取る」とした約束をしました。"

今回の最大のポイントは実名報道そのものの在り方ではなく、"私と「人物が特定できるような記事は書かない」「記事にする際には私に許可を取る」とした約束をしました。"という、記者と取材源である本白水さんとの約束にあると思います。

朝日は本白水さんとの約束を破って、22日の朝刊に人物が特定できる記事を本白水さんに無断で掲載しました。結果、朝日新聞だけに被害者の実名と顔写真が掲載されました。

業界的には「朝日が(特ダネを)抜いた!」ということなのですが、この対応は三流週刊誌レベルだと思います。

現場記者からしてみれば、本白水さんと最初にコンタクトをとれたところで、記者としての評価は大きく上がり、取材に徹底し、邁進したんだと思います。

記事として書ける内容の話も聴き、事実をすべて記事として書いて、上司にあげているとも思います。社内的には特ダネのチャンスであり、取材する、事実を伝える現場の記者としては当然だとも思います。

しかし、ここからが新聞社の理性と尊厳の問題です。

現場記者が上げてきたものを実際新聞に載せるのかどうか、これは思いっきり社としての朝日新聞の編集マターです。

僕が知っている某新聞社は、今回の事実は朝日同様に押さえながら、掲載するのを見送りました。部数は伸びないかもしれませんが、報道の理性は守りました。信用に値します。

朝日は、今回の一件で、遺族の心をズタズタにしたばかりか、取材もとからの信用を失いました。編集側がそんな理性なのですから、僕なら今後、街ネタ以外の朝日の取材を受けません。

本白水さんは朝日に対して抗議をしていますが、謝罪もないということです。

朝日新聞は「朝日新聞記者行動基準」を定めています↓

朝日新聞綱領は、権力から独立し、言論の自由を貫き、正確で偏りのない敏速な報道によって、民主国家の完成と世界平和の確立に力をつくすことを宣言している。この使命を達成するために、朝日新聞社で報道・評論、紙面編集に携わる者(以下、「記者」とする)は高い倫理基準を保ち、長年にわたって朝日新聞に寄せられてきた人々の信頼をいっそう高めるように努める。この基準は、記者が自らの行動を判断する際の指針であり、記者の活動を支えるためのものである。

この基準には以下の事項も含まれています。

【人権の尊重】

記者は、報道を通じて、民族、性別、信条、社会的立場による差別や偏見などの人権侵害をなくすために努力する。取材や報道にあたっては、個人の名誉やプライバシー、肖像権などの人格権を不当に侵害しない。

【情報源の明示と秘匿】

情報提供者に対して、情報源の秘匿を約束したとき、または秘匿を前提に情報提供を受けたとき、それを守ることは、報道に携わる者の基本的な倫理である。秘匿が解除されるのは、原則として情報提供者が同意した場合だけである。


この基準に照らし合わせると、今回の本白水さんとのやり取りは、明らかに倫理から外れていると思います。

権力から独立し、言論の自由を貫くことは、歴史的にも大変な道のりでした。だからこそ、今後とも新聞社には、いかなる圧力にも屈せず、真実を追求し、あらゆる権力を監視して不正と闘って欲しいと思います。

その正義をかざしている朝日新聞が、今回、権力者ではなく、不正者ではない本白水さんに対して行ったことは正義でしょうか?

相手が政治家ならまだ理解の仕様があります。まったん政治家の僕が相手だったとしても、それは公共の利益のために仕方がないかもしれません。

ただ、本白水さんは普通の民間人です。子どもたちのパパであり、地域で地道にネット関係の仕事をしている善良な市民です。

公共の利益のため、正義のために本白水さんを犠牲にしたというのなら、それはタリバンや正義をかざすテロ組織と同じことです。これは、朝日だけでなく、どの新聞社にも言えることだと思います。

朝日新聞の報道とそれに対する本白水さんの抗議活動の結果、立場が非常に微妙になった本白水さんは、亡くなった叔父さまの葬儀に参列することも遺族から断られ、メディアの集団的過熱取材に悩まされています。

◆家の前のメディアスクラムの状況(本白水さん撮影)

https://www.youtube.com/watch?v=JXALFTvcRjQ&feature=share

非常に悲しいことです。

もし、記者の方や、そのラインの人や、編集の人たちが開き直っているとしたら、読者として、平和を愛するものとして、大変残念です。

あなたに葛藤はないのか。
朝日の横浜総局に葛藤はないのか。

現場の記者に葛藤はないのか。

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